おまけのHONEY 首謀者の呟き


「今頃、みんな楽しんでるかなあ」

手の中で開発途中のICチップのハンダを付けながら、ふとアレクは言葉を零した。
今日は2月の14日。世で言うところのバレンタインディ。

「岩瀬でしょ~、宇崎さんでしょ~、池上でしょ~?」

念の為に声に出して確認する。恋人同士の片方へスパイスとしてのチョコレート。
小さなメッセージカードはあちこちに仕掛けてある。宇崎のチョコには蓋の裏、池上のは包装紙の合わせの間。
岩瀬のものは堂々とチョコレートの上に。

「あとは西脇さんが付け足すって言ってたなあ…」

ハンダゴテを冷やす為に傍らの水を含ませた不燃性のスポンジの上へ置く。

「…バレンタイン…か」


『どきどきした?』


カードに書いた文字。身元不明の誰かから貰ったチョコに、不安になったり、小さな嫉妬したり、焦ったり。そんな小さなスパイスで、心に少しだけ刺激を。

「…やっぱり…うん」

立ち上がり上着を羽織ると身支度を整え、PCの前に腰掛ける。
中途半端な時間だから、怒られるかも知れない。
いや留守の可能性の方が多いかも。

そんな考えが頭を過ぎるが、躊躇うことはなく、アレクは画面に向き直った。
掛け慣れる程ではなくても、忘れない番号をコールする。

幾度かのコール音の後。いつも会いたいと思っているかんばせが映る。
アレクの心臓が強く脈打った。
ゆっくり口元に笑みを浮かべる。

そしてそのまま…嬉しさを隠さぬままに、声を発した。

「Hai,marti.…How are you?」


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