HONEY プロローグ


2月14日。

西脇巽の目の前には綺麗にラッピングされた小さな箱が幾つか山となって置かれていた。
周りの隊員達の羨望の眼差しも気にせず、当の本人は涼しい顔で味噌汁など啜っている。

「何、西脇。チョコレート?」

からかうように告げた宇崎が、西脇の向かい側に温かな湯気を立てた夕食を乗せたトレーを置いた。

「モテル男は大変だね」

他意もなく、邪気もなく。
さらりと続ける宇崎に椀を置いてた西脇が中の一つ…一際可愛らしいピンクの透けるような紙に包まれた小箱を差し出す。

「はい、宇崎」
「…は?」

呆然と宇崎が包みと西脇を交互に見遣る。

「ええっと…西脇?」

躊躇いがちに宇崎が声を掛けるも西脇は無言のまま宇崎に包みを差し出したまま。

「…ありがとう」

取りあえず、というように箱を受け取った宇崎に西脇は彼にしては爽やか過ぎる笑顔を向け

「どういたしまして」

いけしゃあしゃあと頭を下げた。


「西脇、どうしたんだよ?」

自室の入口で外警班長の姿を確認した石川は、開いた扉に片手を掛けながら訝しげに西脇の手の中の色とりどりの紙包みに視線を向ける。

「岩瀬は?」

仕事時の堅苦しさを脱ぎ捨てた西脇の気安さに、石川も親友に対する気軽さでただ一言、風呂、とだけ答えた。

「うまいツマミあるけど、ビール、飲んでいくか?」

扉に掛けた手を部屋の中へ向け、室内を指し示す石川に西脇は軽く首を振ってみせる。

「他にも行くとこあるから」

そして手の中の綺麗な花柄の紙に包まれた箱を差し出す。

「岩瀬に」
「…誰から?」

微かに顔をしかめた石川に、西脇は箱を渡すと口元に一本指を立てて小さく『内緒』と告げ、笑いかけた。


その頃。


外警の見張りボックスの中。二つの箱が並んでいた。
片方は金のラッピングシートにシルバーのリボンの派手なもの。片方は焦茶の高級感のある箱に深い赤のベルベットのリボン。
発見した梅沢が、外で今まさに上がろうとしている先輩二人に声を掛ける。

「池上さん、本木さん。お二人宛に何かあります!…あ、西脇さんからです」


「アーレク」

残り一つの紙包みを手にして、西脇はアレクの自室のチャイムを鳴らす。

「ああ、ご苦労様でした」

中から出て来たアレクは上機嫌に笑いながら、西脇に小さな紙包みを差し出した。

「まったく、お前は変な企みをするね」
「企みなんてヒドイ。イベントですよ~」

アレクの手から紙包みを取ると、軽く西脇の手が頭を小突く。

「取りあえず、みんなには差出人はボカして渡しといたけど」
「俺が行くと、もうみんな、何か企んでるってわかるじゃないですか。助かりましたよ~」
「俺も別の意味で何か企んでると思われてるだろうけどな」

ふと笑って、西脇は手にしていた紙包みをアレクに渡した。

「ほら、これは俺から」
「俺に?うわ、ありがとう、西脇さん」
「俺もそれなりに楽しませてもらえたしな。あと…これのお返し」

手にした紙袋を軽く振ってみせ、満足げに口元を緩ませた。


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