やさしい雨


降り出した雨音に荷物を片付ける手を止めた。
今日でもう三日連続だ。
立ち上がり、窓辺に寄るとレインコートを手に外周りの隊員へと駆け寄っていく外警班の面々が見えた。
雨は身体も冷えるし、体力も奪われる。
降ってしまうのが自然の摂理だけれど、少しでも優しい雨であって欲しい。

レインコートを着込んだ姿を確認してから再び視線を片づけていたものへと戻した。

ベットの上の幾枚かのDVD。
昔買い込んだそれらの映画は暫く箱の奥底にしまわれていたものだ。

少しの間、俺はこれらを見るのが辛くて
映画自体、観るのも辛くて
だから、片づけて、無い物のように扱ってきたのだけど。

「…この映画、凄く良かったな」

パッケージのひとつをそっと撫でる。

DVDでは発売されなかったタイトルをレーザーディスクで観たりする程度には映画が好きだった。
自分が生まれるよりも前に公開された映画や日本では上映されることのなかった映画。
幾度も映画館に通った映画のものもある。
実家を出る時、厳選して持ってきたものばかり。
それらはテレビやネット配信を気軽に利用できなかった学生時代に集めたもので
その映画を初めて観た時に自分が置かれていた状況や思い出や記憶も鮮やかに蘇ってくる。

その思い出は手放せなかった。

箱の中に眠っていたDVDを机の上へと並べる。

やっと出せた。

自分に自信があるわけじゃない。
自分が何かの役に立てているかはわからない。
けれど。

「…おかえり」

空にしたままだったDVDを置く為の棚の一角に、あれから一枚も増えていないDVDがきちんと並ぶ。

過ちを後悔して、辛くて情けない記憶を抱えても
自分が大切だったものを否定しない。
思い出にまで蓋をしたくない。
今の自分を作ってきたもの。
自分が大切にしてきたもの。

大切な場所を守る為にこれからも進む為に
今まで大切にしてきたものとも向き合おうと決めたんだ。

俺に託してくれると言ってくれたのだから。
俺なら出来ると言ってくれたのだから。

俺を信じてくれる人と一緒に自分自身と向き合い続けたい。
窓を伝う雫のせいか、表の景色が少し滲んで見える。

雨はきっと止まないだろう。
出掛けようと思っていたけれど、取りやめて。

「…今日は部屋で映画三昧だな」

呟くと同時に自分の心にも伝わって落ちたその雫は消毒液のように消えない傷口にじわり少しだけ染みて
けれど、温かく広がった。


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