uncle


二人揃っての休み。
連れ立って出掛けた子供服や赤ちゃん用品の大型の専門店は平日なこともあってそんなに混み合ってはいなかった。
初めて入る店に入口でぽかんと口を開けていた僕らにレジから店員さんの視線が飛んできて、慌てて足を踏み入れる。

「何がいいのかわからない」
「僕も」

広大な敷地に膨大な量の子供用品が並んでいる。
どれがいいと選ぶにしても、何を選ぶのかを決めないと一日どころか一週間くらいかかってしまいそう。

「小さい」

手を伸ばしたのは靴下。
白のレースが履き口についているから恐らく女の子用なのだろう。
しかし、洋服はサイズも色々だし、生まれてきてこれらの服を着られるようになる頃は季節はとうに過ぎていってしまうのだ。
本当はもっと出産が近い時期になってからでもいいかとも考えていたのだけど、自分達の仕事を考えると予定がいつ変わるかもわからないのだから行ける時に行っておいた方がいいという結論に達したのだ。
時間がある時にしっかり自分達の目で見て選びたいと、二人共思っていたから。

天井からぶら下がるコーナーを示す看板を頼りに進んでいく。

僕らは子供がいないし…それどころか結婚もしてないわけだけど…子供のいるおうちで何が欲しいのかを考えるのにはだいぶ悩んだ。
兄さんと義姉さんにも聞いてみたのだけど消耗品関係はCOM班や室管理班から頂くことになっているし、それだけでも十分なのだから気を遣わなくていいと言われた。

けれど。
新しい僕らの家族に僕らは僕らでやっぱり贈り物がしたかった。

奥へ進む内に大型の品が置かれたコーナーに差し掛かる。
ベビーカーは使い勝手があるから使う本人達が生活スタイルに合ったものを選んだ方がいいと、三舟さんからの助言があったり、ベビーベットはしまう場所の問題がある、と森繁さんが問題提起してくれたり
結局、家具や大きなものは本人達の意思で決めてもらうのが一番なんだろうという結論に落ち着いた。

でもそれで僕らの贈り物はまた『どうしよう』になってしまったわけなんだけど。

困ったことに、悩んでいるのに僕らはどうしてか笑顔になってしまっていた。

「なんだか、こういうのいいね」

同じように感じていたのだろう室井さんも、少し困ったように笑っている。

小さな子供服や、椅子や、帽子や、靴や。
いずれこれらを使うであろう僕らの…可愛い甥っ子か姪っ子の為に僕らは今、悩んでいるんだなあって思うと顔はどうしたってにやけてしまうのだ。

「ん??」
「なんだか不思議なものがありますね」

広い店内の外れにはアクセサリーコーナーがあった。
子供にアクセサリーという感覚があまりなかったから、思わずそのコーナーの前で佇んだ。

「覗くだけ覗いてこうか」
「そうですね」

ショーケースの前では小さな女の子が硝子に両手をついて真剣な顔で中のリングを眺めている。
やはり小さな頃から綺麗なものが好きなのかな。
義姉さんもそうだったんだろうか。
聞いてみようと横へ顔を向けると、室井さんはショーケースの端の説明書きを真剣に読んでいるところだった。

「…スプーン?」

説明書きの隣には柄が丸く持ち易いようになっている銀のベビースプーンが白いクッションの上に乗っている。
書かれた説明を一文づつ読んでいった。
それはたった四行しかなかったのだけど、その内容は僕らの気持ちを固めるには十分な長さだ。

「赤ちゃんが一生幸せでいられるように贈るんですね」
「どう?」

文句などあるわけもなく、むしろ大歓迎の意味で頷いた。
室井さんもそれに応じるように頷いて、近くにいる店員さんに声をかける。

赤ちゃんが一生食べるのに困らないように、一生幸せに生活できますように。
そんな願いを込めて贈る贈り物。

「目一杯幸せになってもらいたいもんね」
「幸せになりますよ」

在庫を確認してもらっている間に目線を交わす。
僕らの自慢の兄さんと姉さんの子だから、きっと幸せになるだろうけれど
その為の手伝いならいくらだってしたい。

「あ、でも僕らは『おじさん』って呼ばれますけどね」
「お兄ちゃんと呼んで貰えるように、赤ちゃんのうちから教え込む方向で」

仕事中みたいな真面目な顔で室井さんが言うものだか僕は思わず噴き出してしまったけれど
きっとそれを口実に足繁く通ってしまうのであろう僕らの姿も思い浮かんでしまった。

「でも、もし『おじさん』って呼ばれるようになっても、それはそれで嬉しいかもね」

おじさんでもいいや…それも本音。

僕らはいつもより多く笑う。
室井さんも、笑う。
僕も笑う。

小さなスプーンを小さな手が握ってくれる日が今から本当に。

「楽しみですね」
「楽しみだね」

新しい家族はきっと僕らにとっての銀のスプーンだ。


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