空は続くから


台風が行き過ぎた後の空は澄んでいた。
青々と美しく、吸い込まれそうな秋の空には何の余分なものもなく、湿気が強かった時期を抜けて、空気が纏うものが随分と減った気がする。

「台風来た後とは思えないな」
「うん」

空を見上げてはいるものの、心ここに非ずな様子にぽんと頭をひとつ叩いた。
仕事上がりに屋上に向かう背中を見つけて追ってきたけれど暫く何も話さず並んで立っているだけで、こちらから口を開いたのはいいものの、返事は上の空。

「どうした、梅沢」
「…うん」

俺のように空を見上げるでもなく、眼下に落とされたままの視線が追っているのは開閉されるゲートだった。
昨日の夕方、襲撃にあった部分が焦げているのが確認でき、そこで、ああ、と納得した。

「また落ち込んでるのか?」
「またって…」
「まただから、また、だよ」

ゲート内には外警が二人居た。
その内のひとりが梅沢だったのはセンターに居たから知っている。
鉄柵にぶつけられたのは小型の爆弾でも曲げるには至らず焦す程度で
苛立った犯人が柵を開けろと刃物を取り出し怒鳴り散らしているところに非番だった城が通り掛かり、ゲートの外で、素早く取り押さえたのだと聞いた。

「凹んでどうするよ。梅沢はゲート内、城はゲート外」
「うん」

ゲート内には一般職員がちらほら残っている時間だったからゲートを開けて取り押さえる前に職員の安全の確保をしなければならないのは当然のことだ。
勿論、外に通行人がいたのならそうはいかないが、幸い、外に居たのは城だけだった。

「良かっただろ、城が居てくれて」
「うん」
「あんな頼りになる男が味方なんだから頼もしいと思っとけ」
「そこはちゃんとわかってる、けど」

たまに無茶をして叱られながらも活躍している城の姿を見ていると、城は自分達より遥か先を行っているのではないか、と思うことがある。
外警で外部の侵入者と対峙することが多い梅沢は何度か目の前で城の活躍を見ている筈だ。
梅沢だって仕事をしている。
不審者に対峙し、取り押さえることだって経験しているし成長だってしてるけど、城の姿を見れば、どうしても、自分が取り残されているのではないかと自分も不安になる。 でも、同時にそれは今だけだと信じている。

「追いつけばいいんだよ、梅沢」

一緒に過ごしている城は自分達と一緒に入隊した優秀だけど当たり前の二年目の隊員で、悩みだって弱さだって、ある普通の男だ。

「それでそこから先はずっと城と並走するんだ」

今は、先輩達が城の前や隣を走っているのかも知れないけれど。

「それに案外、あれで城は突っ込んでいく方だから、誰かが並走出来るようにしといた方がいい」
「うん、確かに」
「先輩でも後輩でもなく、俺達が隣を走るんだ。同期なんだから」
「うん」

城がどんなに早く走ろうと、長い道のりなんだ、諦めず走り続ければ、いつかは必ず追いつく。

「梅沢」

まだ下を見たままだった梅沢の背中をぽんとひとつ叩く。

「上向けよ」

まず初めは上を向くこと。
早く走るには、向かう先を確認しなきゃならない。

顔を上げた梅沢の目に、澄んだ青い空が映る。
どこまでだって繋がっている、綺麗な綺麗な空だ。

「ほら見ろ、こんなに綺麗な空、見なきゃ勿体ないだろ」


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