名もなき星
どの代でも隊員の中でも目立つ奴ってのは居て で、あいつらはきっと将来的にはこの隊を中心で支える存在になるんだろうなんて、感じる。 ああ、そんなもんだよ。 俺だってそうだ。 例えば本木がそうだった。 あいつが入ってきた時には本当に驚いた。 なんでって。良く食う、良く笑う、良く走り、そしてとにかく良く働く。 直情型で血が上り易くて、正義感。 失敗も多かったし、任務中も煩いだのけたたましいだの西脇さんが良く叫んでいたのを思い出す。 そんなあいつも今じゃたまに静かに野田由弥なんかと話をしてるところなんか見ると 大人になったもんだ、なんてことも感じるようになった。 自分が納得いかなきゃ喧嘩も売ってたのに。 そうそう。本木、城にも喧嘩売ったことがあるって聞いたなあ。 俺も又聞きだけど城が入ってきた当時、何だか知らないけどやけにギスギスしてたことがあってさ、その時期らしいんだ。 本木がやらなきゃ俺がやってた、なんてこと言ってた奴もいたくらいだったから城の態度が問題だったんだろうけど 深く知る前にちょっと事件があって、その事件の後にはもうすっかり城は丸くなっちまってたから結局詳しく知らず仕舞い。 今の城見てると信じらんねえよな、そんなことあったなんてさ。 俺はさ、城の親父さんも知ってんの。 うん、城教官。 凄い人でな、その人に少しずつ城が似てきてる気がするんだよ。 いい意味で変わっていくのを見守っていきたいと思わされる存在。 教官のこと抜きにしたって、まあ、城は有名になっただろうけどな。 あそこまで前線で戦うコンピュータ班普通いないだろ。野田班長、胃痛とか平気なのかね? アイツなんで外警じゃないんだろう? いや、コンピュータ班に向いてないとかじゃなくて、純粋に、あの現場でのはっちゃけぶりを見ると。 今度アレクさん辺りに聞いてみるか。うん、そうしよう。 変化っていや、池上も変わったなあ。 今でこそ超優秀な隊員だけど、入隊の頃はそりゃもう食べ物の好き嫌い激しくて。 池上の外警としての身体作りがしっかり出来てるのは本人が必死でリハビリとかして鍛えてきた努力もあるんだろうけど …ああ、あいつ大きな怪我…まあ、生死彷徨うくらいの怪我をしたことあってな、それでもしっかり現場復帰したっていう経歴があんだけど それ以外に、食育のおかげでもあんじゃないかな。 あれ食べられない、これ食べられない、っていう池上に、料理長自ら付き添って好き嫌いを失くそうってんで良く構ってたよ。 あ?二人の関係? その時の指導がキッカケかどうかまでは知らないよ。知りたきゃ、当人同士に聞けって。 人の恋路に首突っ込む程、俺は暇じゃありません。 でも、池上は確かに変わった。今じゃもう外警の顔の一人だもんな。 変わったっていや、班を変わった奴とかも居るんだぞ。 開発にいる植草とか、異動した口。 今じゃすっかり開発班の一員だけど、結構努力したんじゃないか。 専門職とまではいかないけど、隊の中でそれなりに班ごとに決まった職務内容があって それを一から…しかも開発なんて特殊性の高い部署に異動したんだから、本当に頭が下がるっていうか。 それを感じさせないあのパーソナリティも凄いよな。 あ、後、天気予報が当たるのも凄い。あれは一回やってもらってみるべき。 後は…そうだな。 平田も、かな。 結構、あれはあれでヘビーな過去があってさ。 その辺り、突っ込んでやるなよ?それ自覚した上で、自分と戦ってきた奴だからな。すげえ奴なんだ。 見た目も行動も控えめだからあんまり目立たないけど、クロウさんに可愛がられてる部下だけのことはあると思ってる。 自分の中の何かとずっと向かい合って成長してきた奴なんだ。 他にも梅沢とかもあんなに怖がりだったくせに、いっぱしの隊員になった。 本木の後ろをついて回ってたんだぞ、あいつ。 室班の真田副班長は前任者の野田女史がかなりの遣り手だったから心配してたけど何のこともなくすんなりと引き継いだしな。 本人にゃ何か葛藤とかあるのかも知れないけど、そこまではわかんねえや。 後から入ってきた奴等が成長していくのを見るのは嬉しいもんだよ。 ひとりひとりの成長を見ると同時に隊が進化していくように思えるんだ。 で、どの代でも隊員の中でも目立つ奴ってのは居て あいつらはきっと将来的にはこの隊を中心で支える存在になるんだろうなんて感じる。 それでなきゃ困るだろ。 俺達にとっても、これから未来の隊員になる奴等にとっても、居なきゃならない存在だ。 今、輝いて見える奴、隊の中でも次の世代の中心になるんだろうと思える奴らが、絶対に中心になるとは言わない。 でも、その力があるってのは皆が認めてることだ。 けどよ、だからって何だって話だよ。 俺はずっと、一警備隊員であると思う。 お前もそうかも知れないが、あいつらも俺達も皆、別に上に立ちたいから仕事してるわけじゃない。 そうだろ? 結果として上に立つ人間が出てくるだけで、守りたいと願うその気持ちはベテランだろうと、新入隊員だろうと変わらない。 役職に就いていようと、一隊員であったって変わらない。 お前もトップに立ちたいから警備隊員をやってるんじゃねえだろ? 誰かと比べるんじゃなく、自分に問え。 今、自分は守るべきものを守る力を持っているだろうか、って。 自惚れず、直向きに、信じるものを誠実に考えて それで足りないと思うなら努力すればいい。 例えるなら、そうだな、星だ星。 岩瀬補佐官と一緒に夜勤してる時にちょっと聞いたことがあって興味あったから調べたんだけどよ、星って等級があるの知ってるか? 知ってるなら話、早ええや。 夜空に輝いてる星は皆一等星なわけじゃないだろ。 でも一等星じゃない星が輝いてないわけじゃねえし、一等星じゃないから輝くことを止めたり手を抜くわけでもない。 逆に一等星は一等星で強く輝き続けなきゃならない、光を放つことに疲れてる暇もない。 一等星も名もなき星も含めて宇宙ってのは成り立ってるんだろ? 眩しく輝く星も小さな光を瞬かせる星も、何一つ不要なもんなんかねえし、大きくたって小さくたって何一つ、いい加減に輝いてるわけでもねえ。 警備隊だって一緒だって思わねえか? 上に立つ人間だけで成り立ってる組織なんかねえんだよ。 明るい星だけが輝きゃいいのか? 幾ら一等星一個一個が明るくたって、それじゃ夜空は照らせない。 違うか? 結局、俺も、あいつらも、お前も警備隊員で、そうなれば光の強さなんか関係なくやることは同じだ。 人を。場所を。思いを。大切な信念を守る。 シンプルに考えりゃ。 その為に自分がするべきことをする、それだけでいいんじゃねえかと。 俺はそう思うんだ。 Index |