君を想う冬の夜


慌ただしさの中で年末は過ぎ行き
警備隊の日常も日を追うごとにどこか忙しなくなっていたけど
年の瀬もここまでくれば、静けさが勝る。

熱という熱が消え去ったのかと思うほど冷えた空気と
キラキラと宝石みたいに光輝く星々。
手袋をした両手の指先の感覚が遠くにあるように感じる。

鼻の奥が痛いくらいの冷え込み。

外警監視室から一歩出て休憩を取る為に食堂へ向かう。
遠くから聞える除夜の鐘。
クリスマスは由弥とケーキを食べられたけど、結局それ以降は顔を合わせるのが精一杯。
”年末は毎年忙しいね”
他愛もない会話もメールでの遣り取りになってしまうくらいに擦れ違っている。
今日は声くらいは聞けるかな。
外警は落ち着いているけれど、由弥の仕事も落ち着いていればいい。
二日から四日までは二人合わせて休みだから、少しはゆっくり話ができそうだ。

いい加減由弥不足で、もうそろそろ補給しないと限界だ。
深々と溜息をついて自分らしくないと額を叩く。
ここに由弥がいたらきっと同じようにそう言って笑うだろう。

…ああ、もう逢いたいなあ。

量は多くないけどこれまで一緒に過ごしてきたクリスマスも大晦日も正月も。
楽しかったり騒騒しかったりしたけど、やっぱり凄い大切な思い出で
だからこそもっともっといっぱい大切な時間を増やしたいとか
…俺って欲張りなのかな。

「でも」

一年が終わって始まる時って
大切な人に感謝するとか、新しい一年を一緒にまた歩き出すんだっていう決意とか
ただ月が変わって、ただ一日が過ぎただけじゃない特別な時間なんだから
一緒にまたこの一年も過ごして行けるってこと二人で確かめたいとか思うのは仕方ないだろ?

離れてるからって確認できないわけじゃないけど出来るなら一緒に居たいって、想うくらいはいいと神様だって言ってくれるだろう。

大袈裟なことではないし口に出すことだってしないけれど
結局、俺は年が明けようとしている今、この瞬間だって由弥に逢いたいと思ってる。

「…仕方ないよな?」

突っ走ってしまう俺を由弥はいつだってやんわり諫めてくれ
でもそんな俺を好きだって言ってくれて大切だって言ってくれて
嬉しそうに笑う由弥は本当に可愛くて、それだけで、俺も嬉しくて。

「幸せなんだから仕方ない」

俺の大好きな人も俺を好きだって言ってくれて傍に居てくれて
だから、逢いたいって思っちゃうのは仕方ない。

除夜の鐘はもういくつも鳴らないだろうけど、由弥の最初の声に間に合わなくたって、今年最初の俺の声を届けるのは由弥がいい。
留守番電話になっている由弥にメッセージを残す為、俺の足は自分の携帯を取りにロッカーへ走り出した。


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